なつやすみはみじかい。


夏休みEnjoy summer vacation.



女の子らしくない、でも男の部屋じゃないってことはすぐわかる。 ぼろくさい、ちっさい扇風機が1つ。一生懸命働いている。 それでもぼろくさいそんな扇風機では耐え切れなくて、 汗がいっぱいにじみ出てくる。そんなわたしの部屋。


「じゅうす、持ってきた」


やさしいわたしは、突然の来訪者のために、冷えたジュースを持ってきてあげた。それなのに礼儀知らずの来訪者は雑誌に目を向けたまま動かない。



「おまえ、夏休み、どっか行く?」


このまま、人形のように動かないかと思ったら、ジュースを奪われた。 ついでに おまえなつやすみどっかいく。 なんて棒読みで聞かれた。 どっかの『か』で少し、一瞬、わたしを見た。絶対、目があった。




「おまえ、女なんだからあぐらとかやめれば」
「いいじゃん、克哉だし」


おさななじみだから、もう、女とか男とかどうでもいいでしょ。
克哉とわたし。 小さい頃からずっとずっと一緒。



「夏休みは、けんたと遊び行く」


ふぅーん。

聞かれたから、答えてあげたのに、薄い反応。 だったら、聞くなとクッションを投げつけたくなる気持ちもあったけれど、 そんな気力がわかない、夏だから。

「じゃぁ、おれも行く」
「は」


克哉はよく、不思議な発言をする。突然。


「だって、”ずるい”じゃん」
「何が」
「2人で行くとか。”ずるい”じゃん」



何が”ずるい”のかと何度聞いてもいつも答えは「だって”ずるい”」。 そうやって逃げてる克哉も充分”ずるい”。


テレビをつけても、やっぱり夏。暑い、暑い。 暑いからかなんだかわからないけれど、テレビ番組すべてがつまらなく思えてしまう。 チャンネルをまわすと、懐かしいドラマの再放送。 恋愛ドラマ。ベタな展開だ。


 純ちゃん、わたし、あなたのことが。
 まゆみ、俺も、お前のこと。




「好き…だから」






テレビの音?ううん、違う。 あんな弱弱しい告白なんてドラマじゃしない、格好悪い。 それでも、気づかないフリをしてしまうわたしは、克哉の言うとおり、”ずるい”のかもしれない。




 まゆみ、ずっと一緒にいよう
 ほんと?
 ほんと
 ありがとう、嬉しい



くだらない、恋愛ドラマ。 ベタすぎる展開。 もう少し、センスのいい告白ってもんを知らないのかな。 このドラマも。同じ部屋にいる、克哉も。




 まゆみ、何があっても守るから
 …うん
 まゆみ、結婚しよう
 …うん、ありがと





感動の、クライマックスのシーン。 ほんとうに、もう少しセンスのいいセリフ浮かばないものか。


ふと、横を見るとわたしの隣に来ていた克哉と目があった。
「あれ、いつの間に、此処来たの」
「さっき」


本当は、隣に来たことも知っていたのだけど。 気づいてないふりをしてしまったわたしは”ずるい”。 さっき克哉が言ってた”ずるい”は正しかった。



「このドラマ、くそだね。プロポーズがあんなショボイなんて。」

克哉もそう思うでしょ?って、言おうとした。 それなのに。 なのに。

 克 哉 こ そ ” ず る い ” じ ゃ な い 。



真面目な顔してキスなんて。反則だよ、”ずるい”じゃない。



「聞けよ」
「何を」
「さっき!言ったのに」
「何を。なんて言ったの」



知らないふり、しちゃってるけれどきっとさっきの『好き』って言葉。

知らないふりしてるずるいわたしと、勝手に真顔でキスをしてきたずるい克哉と、 ベタな展開で見ててイライラするクソドラマと、 ひたすら働きつづける扇風機と、うるさいうるさい、わたしの心臓と。




急に、元気がなくなってしまった克哉のため息がやけに大きく聞こえて、 セミのうるさい声が余計に大きく聞こえて。 テレビドラマは終わってしまって。 わたしは汗が止まらない、暑い暑い夏休み。


長い、長い、気まずい時間。



「知ってた。よ、克哉の気持ち」




むかしから、ずっとずっと知ってた。 いつも、わたしと誰か男の間に割り込んでくる克哉の気持ち。 いつも、”ずるい”でごまかされていたこと。 全部、全部気づいてた。






「夏祭り、一緒に行こう」

少しだけ、勇気を出して克哉のことを誘う。暑い暑い夏。長い長い時間。


「じゃあ」




俺と付き合ってくれるの。




優しく不安そうに笑う克哉のことば。
窓から聞こえるうるさいせみの声も、なんだか不思議と優しく聞こえた。 さっきのドラマも、なんだかくそじゃないかもって思えた。





悔しいけれど、顔がニヤけた。嬉しかった。 うなずいたら、克哉の顔、一気に笑顔が広がった。
長い、長い、夏休み。
短い、短い、夏休み。


------------------------------------FIN.
ドラマ適当すぎるよ。どうしよ。恥ずかしい。かなり恥ずかしい。20030816

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送