あの日、あれから、あのあと、わたしはとにかく混乱した。
頭に浮かぶのは『なんで、どうして、うそ』そればっかりで。
ベンは勝手にわたしの心ぐじゃぐじゃにしただけだった。

あの日、っていうのは、つまりその、えーと。
ベン、がわたしにキスをした日…で、えと、それでそのあとなんかあの…
ベンがわたしを、好き、だとかありえないことを言った日のことで…。


ASADA


翌日、ベンは本当にいつもどおりみんなのおしゃべりの真ん中にいた。
わたしが教室に入ってきてもこちらを見なかった。ていうか、気づいていなかった。
まるで何もなかったみたいに。
ベンとわたしは会話を交わさない。目も合わない。昨日の放課後のこと、きっとベンは忘れてる。
おっきなくさりで、心臓を締め付けられた気がした。

わたしにとって、はじめてのキスだったのに。
ベンの目、案外おっきなことも知ったのに。
それなのに、何も無かったかのようになんて。ずるいよ、ひどいよ。
無かったことにするなんて、できっこないよ。

それでも何も変わらなかった。わたし1人であたふたしてベンを意識して、
ベンは何も言ってこなかったしいつもと変わらない態度だった。
1週間たっても、こころ、あの日のこと忘れられないのにベンはやっぱりいつもと同じだった。






今日は、後期の委員会や係を決める日。
わたしは、できれば楽な係がいいなーって思っていたのに、
いつの間にか。
本当に、いつの間にか。
声も出せないうちに、決められていた。
わたしがなったのは、整備委員。別に、整備委員になったのはかまわない。
ただ問題なのは、わたしとベンが整備委員になったってことだけ。

 


で、早速教室のゴミだしをすることになってしまった。
ベンと放課後ふたりきり。
嫌でも思い出す。あの日のこと、あの日のベンの真剣な目。


「浅田さん、燃えないごみね」
俺、他やるから。ベンはわたしを見ないで、黙々とごみの分別チェックをしてる。
ずいぶん適当なチェックだけど。

あの日から、わたしの心に大きなくさりが巻きついてる。
よくわからない感情が浮かんで、毎日毎日そのくさりがわたしを締め付ける。
ベンのこと、もう嫌いになりたくないのに。このままじゃ、嫌いになる。いやだ。


「渡辺くん」
「…なに」

ベンはそれでもこちらを見てくれない。
わたしの心臓をぎゅーってくさりが締め付けて、その痛みで、視界がぼやけてくる。

「なんでもない」


目に浮かぶ涙をぐっとこらえて、燃えるごみのチェックをする。
これから毎週金曜日の放課後、こんな風にベンとゴミを出さなきゃいけない。
そう、思いながら燃えるごみのチェックをしていると視線を感じた。
ベンとわたししかいない教室で。
ベンの、視線を感じた。


時計の音が大きく聞こえる。
閉めきった教室なのに、風が吹いた気がする。
心臓の鼓動がやっぱり大きく聞こえる。


「浅田さん」

呼ばれる気がしてた。

「何?」

ベンの視線は、まだ感じてる。
でも、わたしはベンのほうを見なかった。
目が合うのが怖かった。ベンの目を見て話す余裕が、今のわたしにはない。

「ベンって呼んでよ」

 

 


浅田さん、ごみ出し行こう。

ベンは、やっぱり変だと思う。
さっきまでわたしのほうを一切見なかったのに、今はもういつものベンになっている。
教室の真ん中で、みんなと一緒に大声出して笑ってるあのベンになっている。


「浅田さん、ほんとは何かやりたい係あった?」
「…特にないけど」
「なら良かった」

何が良かったんだろう。
どうしてベンはこんなに普通に話すんだろう。
あの日のキスは、ベンにとっては軽い気持ちだったのかもしれない。
でも、わたしにとっては一生に一度の大きな事件だった。
何もなかったことになんて、出来るはずがない。

「クラスのやつらが、仕組んだんだよ」
「…なんで?」
「浅田さんが、ベンって呼ばないからじゃん」

…そんなの、理由にならないと思う。

どうしてクラスのみんなは、仕組んだりなんかしたんだろう。
わたしと一緒の委員会になったこと、ベンはどう思ってるんだろう。
本当は、もっと仲の良い人とやりたかったと思う。絶対に。

 

 

「渡辺くん」
「…なに」

ゴミだしが終わって、誰もいない放課後の教室に戻る。
渡辺くんにキスをされて、好きだと冗談を言われた2年1組の教室。

「委員会、もっと仲良しの人と一緒だったらよかったよね」
「…え?」
「…わたしでごめんなさい」

沈黙が長く続いて、居心地が悪い。時計の音は、やっぱり大きく聞こえる。
ベンの視線を背中に強く感じる。痛い。視線が、痛い。


「っていうか、浅田さんじゃなきゃ意味ないし浅田さんがいいし…」

だいたい浅田さん鈍すぎない?ていうか俺前言ったじゃん。
そう言う、ベンの真面目な声にわたしはまた心臓が締め付けられる気がした。
振り向くと、ベンと目が合った。
強い目。まっすぐな目。動けない。心臓が、ドクドク音を出す。


「浅田さん」
「…はい」

その一瞬、時計の音が止まった気がした。
自分の心臓の音すら、止まった気がした。全身が熱く感じる。


「好きだよ」


ずるい。
-------------------------------------fin.
ベンが最初、浅田を見なかったのは緊張してたから、です。それがうまく表現できなくて、伝わらなくて…。なんかやだな。
単純に好きだよって言われるのが1番素敵な気がする。
20041127

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