あと一歩の勇気をくれる日

WHITE


浅田さん、クッキーすき?
先週の整備委員の仕事の際に、渡辺くんからそう聞かれた。
例えばそれが真夏だったり、なんでもない時期ならなんとも思わなかっただろう。ただ、今は3月で先月のバレンタインのドキドキもまだ残ってて、だからそんな時期のこの質問はホワイトデーに簡単に直結してしまう。
クッキーくれるのかな、という卑しい気持ちを必死に捨てるように心がけながら、「すき。食べ物はみんなすきだけど」と笑った。うまく言えてたかはわからないけど。

渡辺くんは、チャラチャラしてるように見せて本当はとても真面目だから。
きっと、わたしのこと、いろいろと考えてくれてる。
わたしは逃げてばかりだというのに。



朝、教室に入ると渡辺くんは既に居た。みんなで笑いながら話をしてる。いつだって渡辺くんの周りには人が居る。一言であらわすならば、人気者。


「浅田さんおはよう」
遠くから、にこりと笑いかけてくる渡辺くんになんとなく照れながら、おはようと返すと周りにいた男子がざわざわと渡辺くんを冷やかした。ベン、朝から見せつけてんなよ!とか、アツいなーとか、ひゅーとか。渡辺くんは「うるせ。片想いだ、まだ」と答えて。わたしは、どうしようもなく居心地が悪い。だからなんで渡辺くんはあんなにさらりとすごいことを言うんだろうか。




よっいしょと声がして、前を見ると渡辺くんが前の席にどかりと座ってこちらを見ていた。ふうっと大きく息を吸って、渡辺くんが言う。


今日放課後会ってくれません?





そんなこんなで放課後になると、渡辺くんはてくてくと歩み寄ってきて、どっか行こうと笑った。


「もうすぐ二年も終わりだよ浅田さん」
「たしかに」
「恐怖のクラス替えがあるよ浅田さん」
「そっか。やだなー」
「違うクラスになったらどうしようと思う人が俺は居るからすごくやなんだな。本当にやなんだなークラス替え。」


それは、だれのことだなんて野暮な質問はもちろんできない。自惚れじゃないはずだから。


「2年にあがるときのクラス替えは天国だったけどもねえ。次はどうなることやら。」
「気になるよね」
「浅田さん、俺たちに残された時間はわずかになった」
「どゆこと?」
「人間は全くだめな生き物だよねえ。最初はちょっと望んだだけだ。でもそれが叶うと次。それも叶うとまた次と少しずつでかい望みを持つようになるわけだ。そして今の俺がそれ。焦るなとは言い聞かすけども、やっぱりだめで、残された時間ばかりがリアルなんだ」


また同じクラスになれるなら、焦らない。まだまだチャンスはいっぱいある。でも、もし違うクラスだったら。そうなってからじゃもう遅いから、やっぱり焦る。最初はただ喋りたかっただけだった。次は仲良くなりたかった。次は一番仲良い男になりたかった。そしたら俺だけ特別にしてもらいたくなって、その繋がりが欲しいと思ってしまった。それが今の俺。



渡辺くんは困ったように少しだけ笑って、ガサガサとカバンから包みを取り出した。



3月14日、ホワイトデー。



「浅田さん、答えが欲しい」



そう言ってわたしに包みを差し出した。
その目はいつになく真剣で、ごまかせない。




「浅田さんのことが、好き」





今すぐ浅田さんに俺を好きになれとは言わない。けど、付き合って欲しいって言う。繋がりが欲しいから。



俺と付き合って。








来週の整備委員までに。




「浅田さんの答えが欲しい。出来れば、良い方の返事が欲しい」




真剣に考えてくれた、わたしはそれに真剣に答えなきゃいけない。

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20080929
べんべんべん。

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