初めから、4



日曜日まで、長かった。
康平に会いたいって気持ちがふくらんで、
なのに康平はわたしを避けてばかりで、

なんでなんだろう。

サッチーにたまらず相談すると、
「だから後悔しても知らないって言ったじゃん」
と呆れられてしまった。


たしかに、そうなんだけど。

わたしって、究極にわがままなんだろうか。

 

いつものように、いつもの定位置にわたしは座った。
ここからだと、試合全体が見えるからって康平に教えてもらった。
康平は、いつもどおり真ん中の前目でボールを追っかけてる。

康平のサッカーしてるとこ、ほんとに悪くないんだ。
なんか、少年がボールと楽しそうに戯れてるようで、子供っぽいんだけど、でもがむしゃらで、わりと、好きなんだ。

 

だからわたしは、毎週日曜日に予定を入れなかったんです。
自分で気付いたのは、最近なんだけど。

 


2−1で、康平のチームは、最後の最後にギリギリでゴールを入れて勝利した。
いつもだったら、康平は終わったあとわたしの方を見て笑ってくれるけど、
案の定で、無視されてしまった。

ていうか康平に見に行くって言ってないから、気付いてないのも当たり前なんだけど。

 

「香奈ちゃん、なにやってんの?こっちおいでー」


いつも試合を見に行っているおかげか、サッカーチームのみんなにわたしは知られている。
試合のあとは、みんなのそばにいつも駆けつける役得を得ていたけど、
今日はそうもいかないからってずっとボーっと見ていたら。

監督やチームの人たちに呼ばれて、

「康平ならあっちにいるよ」と当たり前のように康平の元に行くことになった。

 

でもわたしは、康平に避けられているわけでですね。
すんごくすんごく近寄りがたいです。
じゃあくるなって思うでしょ、でもね、

康平のサッカー見ないとなんかだめだったの。

 

「…香奈、ちょっと持ってて」

康平のそばでどうしようどうしようってうろうろ立ち止まってたら、
康平がタオルをわたしに押し付けてきた。

やっぱ、気付くよね、こんなそばでうろうろしてたら。
ごめん。


康平のタオルを握り締めて、
康平の顔とか体とかじっと見つめて、

なんか、こう、きゅーって心臓が縮んだ。
なに緊張してるんだろ。

 

「あ、こうへ、チョコは?」

いつも康平はサッカーのあと少しだけチョコレートを食べる。
わたしが持ってくチョコレートを。
いつものように差し出すと、いつものように「さんきゅ」って答え。
うん、うん、これこの感じがいい。
こんな日曜日がいい。


康平と一緒の日曜日がいい。

 

 

さっきまで、サッカーが行われていたグラウンドで、
ユニフォームからTシャツ短パンに着替えた康平とわたしはいつもみたくぼけーっとひなたぼっこをする。


わたしは、いろんな言いたいことを頭の中で整理して、結局話しかけられないでいる。
康平相手になんでこんなに緊張しなきゃいけないんだろう…もういや。

 

「香奈、おまえ、こんなとこにいていいの?」
「…え?」
「…ほら、小林先輩と…どっか行かねーの」
「うん、いい」
「………なんだそれ」


康平といたい。

なんて言えないけど。

 

ほんとは、今日は小林先輩との映画デートだったけど、
やっぱりどうしても康平に会いたかったから。
ていうか、わたしはもう気付いてしまったから。

 

「こうへぇ。」
「んー」
「…なーんでもない」
「あそっ」


言えない。

 

「俺、今日試合かっこよかった?」
「…うん」
「やっぱりな。だって俺香奈にかっこいいとこ見せようと思って今日頑張ったからね」
「…え、わたし見に来るって言わなかったのに、気付いてたの?」
「気付くよ。当たり前だろ?」


当たり前なのか?
そうなんだ。
幼馴染だから?

わからない。

わたしが、いつどこでどんなに遠くからでも康平の姿がわかるのは、
幼馴染だから?

 


「康平」
「ん?」
「わたし、小林先輩と、別れたの」
「…は?」
「…うん」
「は、はやくね?」
「うん、一週間」
「みじけっ」


香奈は飽き性だなあー、ひでーなあ。


うーんと背伸びして、康平は太陽の光をいっぱい浴びている。
わたしは康平の隣でそれを見ている。
当たり前の景色、幼馴染の景色。

 

「香奈」
「何?」
「…別になんでもない」
「うん」


わたしと康平の距離。
サッカーボール1個分。

康平を見つめていると、
こっちを見た康平と目が合って、へへって康平が笑った。

 


「香奈は、俺にとって初めて見る女の子だった」

香奈は俺にとって初めて見る同い年の子だった
香奈は俺にとって初めての友達だった
香奈は俺にとって初めて一緒に風呂に入った女の子だし
香奈は俺が初めて手つないだ女の子だし
香奈は俺にとって初めての学校とか、全部一緒にいた

香奈は俺が初めて守ってあげなきゃって思った子だった
香奈は俺の初恋の人だった

香奈は俺の思い出の中に全部一緒にいるんだよ。


だから、俺は、
香奈が初めての彼女になって
香奈が初めてのデート相手になって(まあ今も二人でいるけど)
香奈が初めてのキスの相手になって
香奈が初めての抱きしめる相手になって
香奈が俺の初めての…ほら、なんかやらしいことの相手になって
香奈が最初で最後の結婚相手になる。


「でしょ?」

すごく、頼りない顔で康平はわたしの顔を覗き込んできた。
困ったような、なきそうなような。

 

「でも、ちげーんだなあ」

 

それが当たり前だと思ってた。
香奈とは、何もいわなくてもそうなるって思ってた。
香奈も俺のこと好きだって思ってた。

 

 

 

初めて聞いた、康平の今までの気持ち。
康平がどういう風にわたしと過ごしていたか。
知らなかった。

 

「香奈は初めての彼氏を俺じゃない人にした。香奈は俺に恋してなかった。」


人生、計画通りには進まねーなあ。
サッカーみたいだ。


康平、康平、康平。
わたしの人生の中で、常にそばにいた康平。
だから、気付かなかった。

 

「康平、わたし康平のことが好きみたい」
「…幼馴染としてでしょ?」

情けない康平の顔を見て、胸がまたきゅーって縮んだ。


「ちがうっ、康平のことがほんとに好き!」
「…小林先輩は」
「康平のことがすきなの」
「…ほんとに?」
「うん」
「…絶対?」
「うん」
「…一週間で嫌いにならない?」
「ならないよ、すっごいすっごいすきだもん」
「…おれもー」


ぎゅうーーーって、康平がわたしを抱きしめた。
そのあたたかさが、しっくりとわたしを包み込んでくれた。


「香奈」
「んー」
「好きだよ」
「うん」
「でも、香奈は俺の気持ち裏切って小林先輩のとこいった」
「…それは、、(言い訳できないけど…)」
「俺、この世の終わりだと思ったんだぞ、香奈がいないなんてもうやだよぜってー無理」
「…ごめん」


このあと康平にずっとずっと抱きしめてもらって、
康平の気持ちのおっきさを知った。

そして知ったこと。
康平はすごくきもちを言いたがること。
康平の「別にー」とか「なんでもねっ」とかに無言の愛情が詰まってたこと。


「香奈」
「ん?」
「…なんでもねえっ」
「あっそ」
「でも好き」

へへへ、と笑う顔。
康平がわたしを呼ぶたびに想ってくれていたこと。


康平の表情で、いっぱいいっぱい気持ちが伝わってくること。
康平が、かわいいこと。

康平との夏休み、そしてこれからが楽しみです。
 



----------------end--
超、久々に勢いだけで書き上げました。
拙いものですが、久しぶりに何年ぶりかに
仕上げた作品なので、
どうしようもない作品ですがよろしくお願いします。
20100530

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