「1450円です」

ありがとうございました。


In book store.



本屋のバイトを始めて、5ヶ月になる。
本屋といっても、田舎の小さな小さな本屋で。
お客さんは、学校の通り道ということもあって学生さんが多いけど、小学生も社会人の方も結構たくさん来ている。
小さな本屋だけど、それなりに大変で、それなりに楽しい。


元々、本を読んだり漫画を読むのが好きでこのバイトを始めた。
でも、もう受験生になったし、そろそろやめようかなあって。
そんなことを考えたりしています。高校生活最後の4月。




本屋さんには、色々な人が来る。
毎日来る人や、毎週来る人、立ち読み専門の人やら、参考書を買っていく人。
何度も来る人のことは、なんとなく覚えてしまったりしていて。



彼もその1人。


近くの公立高校の制服を着ている、多分同級生。
もしかしたら年下かもしれない。なんかかわいらしいんだもん。

毎日のようにジャンプや色々な漫画を立ち読みして、最後に絶対漫画を1冊買っていく人。
必ず1冊ずつ。
よくこんなに毎日買うお金があるなあ…なんてくだらないことをよく考える。今日は何を買うんだろう。名前はわからないけど、こう何度も会っているとなんだか知り合いのように感じて親近感が沸いてしまう。

この前近所のスーパーで彼を見かけたとき、そんな錯覚をしかけてしまった。彼もわたしに気づいて、なんだかとっても気まずかったなあ、なんて。




今日は、大雨のせいかお客さんが少ない。
今、わたしの視界に入るのはその立ち読みをしている彼1人だけ。
あと、奥のほうに2、3人入ってる、はず。

奥のほうを背伸びして覗いてみるけど、その姿はわたしには見えない。
わたしが行くことのない難しい本のコーナーにいるんだと思う。
視線を、立ち読みしている彼に戻す。









髪の毛が。
毎日立ち読みしているあの高校生、の。
彼の髪の毛が、わたしは好き。
髪質が、なんだかふわふわしていて。
いつもふわっと、でもちゃんと整髪料で整えられていて。
彼の髪の毛を見るたびに、触りたいなって。気になるなって。

髪の毛。が。
今日も、ふわふわしてて。
決まってる。

触って、みたいなあ。




雨はざーざーと降り続いていて、空がとても暗い。
帰り道は徒歩だから、面倒くさいな。




立ち読みしていたあの高校生が、今日も漫画を1冊持ってレジに来た。
今日は20世紀少年の17巻。



「この本屋、バイト、募集してますか」

おつりをわたそうとすると、彼からそんなことを言われた。
どうしても、目がいっちゃう。
ふわふわと決まった髪の毛に。




「あ…、今は、してないと思うんですけど、わたしもうすぐやめるので…また募集するかもしれないです」
「…やめるんですか?」
「はい。だから、募集すると思いますよ」


ふわふわ髪が決まってる、かわいらしい顔した、小柄なこの人。
きっと小学校とか中学校じゃ、やんちゃだっただろうな。

なんて、そんなことを考えていると、彼がまじっすかとため息をついた。


「え?」
「…いつやめちゃうんっすか?」
「…あ、いや、今月いっぱい…くらいです」
「まじっすか」


またため息をつかれる。
どうしたんだろう。



「バイトの話、お話しておきましょうか?」
「や、違う、です違う、んです」


慌てて声を出す姿がまたなんだかかわいらしい。
もじもじとうつむいて、髪の毛が。
髪の毛、が。

触ってみたい、彼の髪の毛が。




突然俯いてしまったと思ったら、また突然ばっと顔を上げる。
行動がかわいい。
男の子にこんなこと言うのもあれだけど、でもかわいいなあ。

じっと見つめていると、彼は困ったように笑って大きく息を吸い込んだ。





「俺、…あなたに会うために毎日ここに来てて」



そこまで言うと、彼はとたんにまた俯いた。
そんなこと言われると思ってなくて、どうすればいいのかわからない。
それって…どういうこと?



「…やめちゃうなら、もう会えないんでしょうか」
「……え」
「俺は、まだいっぱいあなたに会いたいです」



小さな声で。
そんなことを言われて。

こういうのって、ずるくないですか?




わたしもあなたの髪の毛を触りたい。
触れないまま終わるのも、なんだか嫌です。






「だめですか?やっぱやめちゃいますか?」
「…髪の毛」
「え?」



「髪の毛、を。触りたいと、ずっと思ってたんです」


彼はぽかんと口をあけた。
真っ赤な顔で、わたしをまっすぐ見たまんま。

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なんだかまとまりのない…。20060322
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