自転車マジック


8時25分。
携帯電話の時計が、そんな時刻を表している。
「あ、もう駄目だあ」
諦めて、急いでこいでた足の動きをのんびりにする。
もうね、間に合わないもんね。遅刻決定。


1分の遅刻も30分の遅刻も、どっちにしろ怒られるんだし。
だったら汗かいてヒイヒイこいで怒られるよりか、普通に景色見ながら遅刻したほうがちょっとは得だよね。

日差しがだんだん強くなってきて、じんわり汗をかいてるおでこ。
さっきまで猛ダッシュしてたせいで、くたくたになってる足。

うーん、やっぱ夜更かしはよくないね。
寝坊だね。うんうん。



なんてのん気にチャリンコこいでたら、隣に松田くんが現れた。
違うクラスなんだけど、でも遅刻常習犯仲間で結構顔を知ってる松田くん。
黒い短髪がけっこう爽やかな松田くん。



「おはよ」
「おはようー」
「何そのスローペース。がんばれよ」
「だってもう間に合わないもん。悪あがきはしないんです」
「うわあ、タチわりいよ。遅刻っつうのはね、悪いことなんです。わかってる?」


そう言う松田くんだって、のんびりのんびりチャリンコ走らせてるのにね。
駄目だね、遅刻もう駄目だねえ。うん、駄目だ。駄目だねえ。

そんな内容がなーんにも無いような会話して、のんびりのんびり学校に向かって自転車走らせる。



「俺のが斎藤さんより家遠いじゃんね、だから俺のほうがちょっとえらい」
「何それ」
「だから、俺が家出るのは斎藤さんが家出るより早いわけ。俺のがえらいじゃんね」
「変わんないってー」
「いんや、変わる。ちょう変わる。俺んちが斎藤さんちと同じ場所なら俺は遅刻しないねたぶん」

絶対そうなの。これ事実ね。なんって阿呆なこと言う松田くんは毎日が楽しそう。
ニヘニヘ笑って、あっちぃ〜夏になってきたねーなんて突然話を切り替える。
わたしは隣で、気づいたら同じようにニヘニヘ笑ってる。



「あ、そうだ。すっげえことを思い出した。ぼくすごいわ」
「なになに?」


学校がもうすぐだよーってところで、松田くんがキキーっと自転車を止めた。


「俺ずっと決めてたの」
「何を?」



わたしも自転車を止めて、松田くんの話の続きをじっと待つ。
にこにこ笑って、こっちを見据えて。
松田くんは、さらっと言った。



「次、斎藤さんに会ったらメールアドレスを聞こうって。俺ずっと決めてたの」


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かっるーーーーーい話だ。
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