take it easy 小学生編


「河口ー。健太が好きだってさー!」

げらげらって笑いながら、横ヤンがあたしをからかう。
登校中とか、下校中とか、学校でも言ってくる。
そういう、くだらないの、ほんとだいっきらい。ダイッキライ。本当にむかつく。むかつくの。


横ヤンと健太はいっつも一緒に遊んでて、結構クラスで騒いでる主要人物みたいな感じ。
そんな横ヤンがそうやってあたしをからかうと、クラスのほかの子もにやにや笑って一緒にからかってくる。
横ヤンと健太、仲良いくせに。
あたしのことを健太が好きだとか、そうやってからかって。
なんかすごく嫌な気分。



「おはよう」

今日はいつもより早めに登校した。
教室に入ったら、健太と横ヤンとその他男子たちが固まってこそこそ話をしてるとこだった。
げげげって思ったけど、知らん振りして席についたら、「おはよう河口。健太が会いたがってたよ」って横ヤンにまたからかわれた。


むかついて横ヤンに怒ろうとしたら、あたしより先に健太が怒った。
ふざけんなって。
机とかガタガタ音たてて。
横ヤンに向かってほんとに怒って。
あんな健太、はじめて。



ごめんごめん、健太ごめん。
横ヤンがそう言いながら、怒って教室飛び出た健太を追いかける。

残されたほかの男子とあたし。


なにあれ。
そんなに?
そんなに怒ることなのかなあ。
そんなに健太はあたしを好きとか思われるのが嫌なのかな。
あんな冗談、ムキにならなくたっていいのに。
そんなにあたしのこと嫌いなのかな。

別に、いいけどさ。健太とか、好きじゃないし。からかわれてるのも、嘘だって知ってるし。
でも、あんな風に怒ってるの見せられたら、それはちょっと傷つくよ。






その日の放課後、計算ドリル忘れたなあーと思って教室に取りに行ったら、そこには健太がいた。
うわうわうわーなんでこう運が悪いんだろう。
電気も消えた暗い教室で、忘れ物したあたしと、たぶん同じで忘れ物した健太の2人だけ。
朝のあの荒れた健太が頭ぐるぐるぐるぐるして、気まずいため息。



「忘れ物?」
そう聞かれたから素直に答える。うん、ドリル忘れた。



置きっぱなしだったドリルをカバンにしまって、帰ろうとしたら健太と目があった。
なんだろう。
なんか、いやな、くうき。


「朝は、ごめん」

健太が俯き加減でそう言った。
あたしは驚いて、ぽかんと健太の頭を眺める。



「朝の、あれ…気にしなくていいから」


小さな声で、俯きながら、あたしを見ないで健太は言った。
1秒、2秒、3秒。
長い長い沈黙の時間。



そのまま、健太は何も言わずに帰ろうとした。
もやもやとした嫌な塊、あたしたちには残ってるのに。
こんなにこんなに、気まずいのに。

なんか、駄目だと思う。
こういうの。
やっぱり絶対、駄目だと思う。
はっきりさせなきゃって。
だから、ちゃんと、話さなきゃ。
このままじゃ、絶対絶対駄目だと思う。





「なんで、あんなに、怒ったの?」


怒ることじゃ、ないよ。そんなの。
あたしは、別にからかわれても気にしないもん。
なんかすごいびっくりしたよ。何であんなに怒ったの?



暗い教室。
何の物音もしない教室。
目の前には健太。








「……全部、ほんとだから」



何十分にも感じるくらいの、でもほんとはちょっとの沈黙のあと、健太は小さくそう言った。
え?って聞き返そうとしたら、「横ヤンの言うこと全部ほんとだから」って。
おっきな声で健太が言って、そのまま走って帰ってしまった。
あたしは1人、教室で。
足が棒になったみたいに、しばらく動けなかった。





小学5年生のことでした。

-------------------------
その後健太はフラれて今に至ります。しかしなんだろうこの文章は。20060503
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送