「こっちゃん、元気出して」 「無理、絶対無理。ありえない無理」 「しょうがないじゃん、教育実習なんだしさー」 くもりのち晴れ あたしの中学校に、教育実習の先生がやってきた。 まあ、中3になったし3回目の経験なんだけどね。 でも、今回は特別だった。5人の教育実習生の中の1人が、とーーってもかっこよかったから! ずばり、一目惚れ! 藤本隆行。それが彼の名前。ふじもんって勝手に呼んでる。 たった2週間しかないってことで、あたしホント頑張った。自分で言うのもあれだけど、頑張ったの。 ダイッキライな職員室に何度も何度も足運んで、ふじもん見に行った。 ふじもんは美術の先生だから、本来苦手な美術もすっごい頑張った。 美術部の指導に入るって聞いたから、帰宅部のあたしだけどこの2週間は美術部に勝手に参加した。 ふじもんに色々聞いて、美術の作品今回かなりいいの出来たと思うし! ふじもんには彼女がいる。高3から付き合ってきてる彼女だって言ってて、あたしはそれがどーしようもないくらいショックだったんだけど、頑張ればなんとかなるって思ってますます頑張ってふじもんと仲良くなろうと努力した。 ふじもんは高校時代野球部で、ショートだった。ふじもんは167センチしかない。 ふじもんは汗っかき。ふじもんは煙草吸わない。お酒も飲めない。 ふじもんはスーツが似合わない。教育実習は結構いっぱいいっぱい。 ふじもんの目は綺麗な二重。ふじもんの髪の毛はセットばっちり。ネクタイは暗い色を好む。 もっともっと色々知りたいのに。もっともっともっと仲良くなりたいのに。 ふじもんは、今日で実習が終わってしまった。 「こっちゃん、最後今からでも告っちゃえばー?」 「でもさー、ふじもんに今言ったって無理だもん。友達になって連絡先知ってもっともっとあたし頑張りたい」 「…でもそれ、無理だよ。先生なんだしさ、実習とはいえ」 「ふじもん好きなんだもん!」 …でも、無理。 いろんな質問はバシバシできちゃうのに。連絡先教えてってのはいえない。 だって断られたらそこで終わりだし。図々しい生徒だって思われるのも凄く嫌だし。 怖くて、聞けないよ。 なんで、ふじもんとの出会いが教師と生徒なんだろう。 なんでもっと、違う出会いが出来なかったんだろう。 さよなら、ふじもん。 ふじもんの彼女、ずるいなあ。うらやましいなあ。ずるいなあ。好きなのになあ。 「へーこーむーーーーーー」 「こっちゃーん、しょーがないって」 「クミは彼氏いるじゃんかー毎日楽しいじゃんかーふじもんいない学校なんてもうつまんないよ…」 もう学校にふじもんは来ない。 もう一生ふじもんに会えない可能性のほうが高い。 あたし、これからどう生きていけばいいんだろう? 正直受験とか、どーでもいいから今。 「ふじもんふじもんうるせーよ」 「はあ?馬鹿ヤス、ふじもん馬鹿にしたら許さないから」 「悪いこと言わねーから、はやく忘れろ」 「無理、ふじもんはあたしの神様。マイゴット。愛してるもん無理無理無理」 「したら俺が困る」 …………………は?!何それ?…出たよ、馬鹿ヤスお得意の意味不明発言。 「あたし、馬鹿ヤスに迷惑かけるつもりないし!ほっといてほしいです、傷心なんだから今」 「俺の気持ちはどーなんの」 「はっ、意味わかんない意味わかんないありえない、ナスって感じ」 思いのほか真剣な目で馬鹿ヤスこと、憲泰がそんな意味わかんないこと言ってくるから、あたしは今まさにテンパリ子ちゃん。ていうか、わけわかんないから。 クミとか、助けてくんないし。何、これ、ふじもん助けて。 「俺の、気持ちはどーなんの?」 ねえ、俺の気持ちどーなんの。 強くまっすぐ見つめられて真面目に大きな声で言われた。馬鹿ヤスが変。 「俺で我慢して、ていうかむしろ我慢しろ、つーか贅沢だ」 馬鹿ヤスが壊れた。どうしよう。ふじもん。 「無視すんなよ。」 頭になんの文字も浮かばない。浮かぶのはふじもんの笑顔と憲泰の真剣な顔ばかり。 ふじもんの笑顔で頭いっぱいにしたいから。ホントやめてくれ、冗談は。 「藤本より俺のがいい男だし」 「それは無いから。ふじもん>>>>>>>馬鹿ヤスだから、当たり前すぎるから」 「つーかそういうとこだけ返事すんなテメー」 …やっぱ、ふじもん>>>>>>>馬鹿ヤスは言い過ぎた。 ふじもん>>馬鹿ヤスくらいかな。 (がんばれ馬鹿ヤス!)20050918 |
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