SMILE


待て待て!
後ろから聞き慣れた声がした。誰の声かなんてわかってる。だから私は振り返らない。

何故私は怒って足早に歩いてるのか思い出せない。なんかとてもくだらない内容だった気もするんだけど引っ込みがきかなくなったこの感情は、私にとにかく早く歩けと指示している。

「ごめんって!」
そんな怒んなよ!俺が悪かったから!ねえ待てよ!…うるさい声はまだ後ろから聞こえている。何にあやまってるんだろうこの人は。もう忘れたよ私はさ。通り過ぎる自転車がやたら軽快で、私は途方もなく羨ましく思った。自転車を漕いでいる若い男の人から心地良い汗臭さと良い香りがした。頭は似非ベッカムヘアーだった。今更過ぎて、軽くへこんだりした。

ねーまじごめんて。あやまってんじゃん!もう言わないから!おいーねえーマック奢ったるし!ねー!と絶え間なく後ろから情けない声がしていい加減かわいそうになって私は振り向い(てあげ)た。

振り向くと情けない声とは裏腹にニコニコと笑った顔が見えた。なんだよ無視されてへこんでたんじゃないのかよと腹がたったけど、その笑顔がなんだか憎めなくて私は溜息をついた。

「フィレオにする?てりやきにする?ドリンクはSまでだかんね俺金そんな無いし」

へっへーと目の前の男は楽しそうに笑っている。どうしようもないなぁ、なんて思って自分も笑っていることに私は気付いた。

マクドナルドでチーズバーガーを頬張りながら私は、思い出せなかった喧嘩の原因を思い出した。あまりにも些細な出来事だった。



「俺あの本読んだよ、ほらお前が好きなやつ…なんだっけ…ほらお前が言ってた漫画の!」
「ああ、どうだった?」
「うーん俺には難しくてわかんねぇよ、でもあの主人公は嫌いだな」
「なんで?!」
「だってさーやっぱ俺人殺す人好きになれねぇよ」
「…悪役の方がかっこいいじゃん!ばか」



大好きなキャラクターを馬鹿にされて私がキレて逃げていた。ただそれだけだった。くだらないなぁと笑ったら、目の前でも笑顔が一つ広がった。

「んめぇ」
やっぱマックはてりやきに限るぜ!ところでお前ピクルスについてどう思うよ?と目の前の男はコロコロ表情を変える。それを見て私は、ことばにならない気持ちを胸に抱いた。
「好きだよ」

私が言うと彼は「まじかよ、俺ピクルス嫌いなんだよありえねー」と喚いた。

「ピクルスのことじゃないよ」

言い終わると同時にじゃねーと私はマックを飛び出した。後ろからまた待て待てと騒々しい音がする。外に出ると日差しがまぶしくて、夏だなぁと改めて思った。



(思いつくまま…。似非ベッカムヘアーて。自分で呆れる)
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