もう一回


「あ、おはよう」
「おはよ、たけし」


偶然、朝から下駄箱でたけしと会えた。
今日の学校での一番最初の挨拶をたけしとできた。
たぶん、とてもうれしいこと。

そのまま、流れで二人で教室に向かう。
これもきっと、とてもうれしいこと。

照れくさくて、なんだかうつむいてしまうけど。


「たけしは、いつもこんな早い時間に登校?」
「うん、まあ、だいたいこのくらい」
「そっかぁ、わたしなんかいつもぎりぎり登校だよ。
 今日は、早起きできたから特別なんだぁ。」

…でも、たけしに毎日朝会えるなら、これから早起きがんばろうかな。

「いつも、走ってくるよね。」
「…え?」
「ギリギリの時間に、いつも走ってるの見てるよ。」
「うそ…!恥ずかしい…やっぱ教室から見えてるよね」
「毎朝走ってくるまいちゃんを見て、一日がはじまってる」

そんなふうにさらりとたけしに言われて。
なんだか風が吹いたように感じて。
あまりにさらって言われすぎて、何が起きたかわからなくて足が止まって立ち止まった。
肩にかかってたカバンがずりおちて、ガサって音と共に廊下に落下した。

その音を聞いて、たけしがあわてて振り返った。
「どしたの?!」とあわててる。

わたしは、さっきのたけしの言葉を何度も何度も頭で繰り返してみる。
やっぱり、どきどきして、頭が働かなくなる。

たけしは、落ちたわたしのカバンを拾って「大丈夫?」と顔をのぞきこんできた。

「・・・たけし、もう一回ゆって?」
「…え?」
「もっかい、言って?」
「…何、を?」


さらりと普通に流せればよかった。
かわいく笑えればよかった。
でもそんなことわたしにはできなくて。
どうしても、もう一回聞きたくて。言ってほしくて。



もう一度、たけしにわたしの名前を呼んでほしくて。



「たけし、もう一回、名前呼んで?」

恥ずかしくて声が震えてしまったけど、言わずにいられなくて。
ちゃんと言ってほしくて、しっかりたけしの目を見つめて。
だって、すごく、切実なお願いだから。


そしたら、今度はたけしがドサって音をたててカバンを落っことした。
たけしの顔はまっかっかで、
たぶんわたしの顔もまっかっかで、

二人そろって廊下でまっかっかな顔して向き合って。


結局たけしは何も言ってくれなくて、ただずっとまっかっかな顔をして向き合っていた。



たくさんの人にこの滑稽な現場を目撃されて、
この日から、わたしとたけしの噂がクラスや学校中に広まってしまいました。

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20100219
なんですかね、このふたり。たはは
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