休日、午後の雑談にて。


ねえ、昨日あたし病院いったんだ。

そう言うと、三原くんは何で?と言った。
口数の少ない、おとなしい三原くん。あたしの話を静かに聞いて、相槌を打ってくれる三原くん。
「好き」って、言葉で言ってくれない三原くん。


「ちょっと貧血検査で」
「貧血?大丈夫?」
「ああ、そんなことはどうでもいいんだってば」

あたしは三原くんに、いつもいつもくだらない話ばっかりする。
今日の話は、中でもとっておきのくだらない話。


「病院で、あたしすんごい衝撃的な出会いをしたの!」

三原くんは、へぇと興味なさそうな声で言う。あたしはそれが少し悔しくて、いつもよりも大きな声で、いつもよりも楽しそうな声を出す。


あたしのすぐそばにね、多分高校3年生か、それか大学生か、まあとにかくまだ若めのお兄さんがいたの。ね、聞いてる?そんでね、そのお兄さんがね、あのね、ほんとにね、ほんっっっとにね、本当にね、あたしの理想のタイプだったの。特に横顔がね。もう、じーっと見つめちゃって、目が合うたびにすんごくドキドキしちゃって。変な風に思われたかもしれないけどでも、本当にかっこよくて。あたし、横顔がこんなに素敵な人はじめて見たかも。周りはどう言うかわかんないんだけど、ねえ、聞いてる?とにかくその人、あたしの中では最高だったの!診察も、その人の後があたしだったから、けっこう長い間じっと見つめちゃったんだ。病院で流れてるテレビ番組を見てるその視線とか、外の景色眺めてる目の鋭さとか、とにかく本当にかっこよかったんだよ!!あたし、人生ではじめて一目ぼれしちゃったの。ねえ、三原くんは一目ぼれってしたことある?あたし、一目ぼれなんてありえないとか思ってたんだけど、ありえるよ、本当に。衝撃的だった。すごく。ねえ、あたしその人が診察終えて会計もして出ていっちゃうとき、まだお会計してないけど追いかけてしまいたくなったの。だってこれを逃したら、もう会えないかもしれないんだよ?ねえ、三原くん、聞いてる?


三原くんはおとなしくて、あまり多くを語ってくれない。
いつもあたしの話に、適当なところで相槌をくれる。今日だってそう。
うん、へえ、ふーん。そればっかり。


三原くん、あたしその人追いかけることできたんだよ。たとえ、追いかけた結果が駄目だったとしてもそれでも追いかけることはできたんだよ。もし、そうしてたら三原くんはどうする?


あたしは、三原くんの返事が怖くて、三原くんが何か言う前に次を言う。


でもあたしはそれをしなかった。ていうより、できなかった。
ねえ、あたしのはじめての一目ぼれはね、1時間で終わっちゃったの。切ないでしょ。
でもね、やっぱり三原くんがいちばんだよ。


「ねえ、三原くん」
「うん」


これで今日のくだらない話は終わり。いつもありがとう。
とっておきのくだらない話をしたせいで、三原くんはいつもより口数が少ない。


「三原くん」
「うん」

いつも呼んでもうんとしか答えてくれないけど、今日はいつもよりそっけない。


「ねえ、三原くん?」
「うん」


「…妬いた?」




あたしが聞きたいのは、今日はこれだけ、本当に話したかったことはこれだけ。
さっきの話なんて本当はどうでもいい。

あたしの質問に、三原くんは答えてくれないかもしれない。
それならそれで仕方ない。それでもあたしは三原くんが好きだから。






「妬きました」


あたしが質問して、しばらくたってから三原くんは答えてくれた。
うんでも、ううんでもなくて、妬きましたって言葉。うつむきながら、はっきりと。

「よかった」


あたしは、三原くんにいつもくだらない話をする。
そうして、たまに三原くんの気持ちを試すような質問をする。
ずるいってわかってる。でも、三原くんが好きで好きで仕方なくて、三原くんはあまり多く喋ってくれないからすごく不安になって、だから。


「でも、今日の話はほんとだよ。だってその男の人、すっごくかっこよかったもん」(三原くんには負けるけどね。)

三原くんはいつものようにうんと言う。
目が合うと、三原くんはあたしに近づいてくる。これも、いつもとおんなじ。
あたしは、いつも迷惑かけてばっかでわがまま言ってばかりだけど、この瞬間は何も出来なくなる。三原くんの近づいてくる唇を、ただじっと待つしかできなくなる。
あたしは、三原くんがどうしようもないくらい好きだから。
三原くんも、そうならいいのに。

三原くんの気配をすぐ目の前で感じながら、あたしは心からそう思った。

(病院のナイスガイな人は実際に見ました。でもこの話、おんなのこうざったいね…)20050131
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